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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)4806号 判決

原告 區傳春 外一名

被告 呂鎮池

主文

一  原告らと被告との間において、別紙物件目録(一)ないし(三)記載の土地建物につき、原告區傳春が一万分の二一九五、原告李森輝が一万分の四五四の各割合による持分を有することを確認する。

二  被告は、原告らに対し、それぞれ別紙物件目録(一)ないし(三)記載の土地建物につき、真正なる登記名義の回復を原因として前記持分の移転登記手続をせよ。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (「公司」の結成及び原告らの共有持分権)

(一) 原告區傳春(以下「原告區」という。)及び被告は、ともに在留中国人であるが、昭和二四年ころ、他の在留中国人数人と中国において「公司」(コンス)と呼ばれる共同事業形態(以下「本件公司」という。)によつて中華料理店を経営する旨合意し、本件公司の構成員各自が出資した出資金合計金二一〇万円を営業資金として別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地(一)」という。)上に当時存在した建物(以下「本件旧建物」という。)を賃借し、「光蘭亭」の商号でその営業を開始した。原告李森輝(以下「原告李」という。)は、在留中国人であるが、その後昭和二六年二月までの間に本件公司の出資者となり、その構成員となつた。

(二) 「公司」とは、数人が特定の事業のために出資し、そのうちの一部の者がこれを運用して事業を営み、そこから生ずる利益を出資者に配当するという中国における事業経営方式であるが、その法律的性質は、日本法に照らせば、共同出資者間の民法上の組合契約にほかならず、本件公司は、この民法上の組合(以下本件公司を「組合」ともいう。)である。

(三) その後、右組合から組合員(本件公司の構成員)の一部が脱退し、また、組合員の共有財産に対する持分比率(出資の比率)にも多少の変動を生じたが、昭和二八年六月二三日、組合員全員の間で、その持分比率を次のとおり確認した。

被告 二四・二〇パーセント

原告區傳春 二一・九五パーセント

同李森輝 四・五四パーセント

訴外區有富 一八・一〇パーセント

同黄澤楹 一〇・九七五パーセント

同唐潤生 一〇・九七五パーセント

同有川礼子 九・〇九パーセント

2  (不動産の取得)

(一) 被告は、組合の代表者として、組合の出資金又は光蘭亭の営業利益により、

(1)  昭和二六年二月二二日、本件土地(一)及び本件旧建物を訴外守屋伯雄から金三二〇万円で買い受け、

(2)  昭和三六年六月一五日、別紙物件目録(二)記載の土地(以下「本件土地(二)」という。)を訴外曾白蘭から買い受け、

(3)  昭和三七年一月一五日、本件旧建物を取り毀し、その跡に同目録(三)記載の建物(以下「本件建物」という。)を新築した(なお、同建物は同年五月三一日増築されて現状のものとなつた。以下本件土地(一)、(二)及び本件建物を総称して「本件土地建物」という。)。

(二) 被告は、いずれも自己の名義で本件土地(一)、(二)につき所有権移転登記手続を、また本件建物につき所有権保存登記手続をした。

3  (結論)

以上のとおり、本件土地建物はいずれも原告ら及び被告を含む七名の組合員の共有(合有)財産であり、前記のとおり、原告區は二一・九五パーセント、同李は四・五四パーセントの共有(合有)持分を有するところ、被告はこれを争う。

よつて、原告區及び同李は、本件土地建物につき順次一万分の二一九五、一万分の四五四の共有持分を有することの確認を求めるとともに、右各共有持分権に基づき、被告に対し、それぞれ本件土地建物につき真正なる登記名義の回復を原因とする右共有持分の移転登記手続をすることを求める。

二  請求原因に対する認否等

1  請求原因1の(一)記載の事実中、本件公司の構成員各自が出資したことは否認し、その余の事実は認める。同(三)記載の事実は否認する。

同(二)記載の本件公司の法律的性質及び同(三)記載の事実に対する被告の主張は、後記3のとおりである。

2  同2の(一)記載の事実中、被告が(1) ないし(3) 各記載のとおり土地建物を買い受け、あるいは建築したことは認めるが、その余の事実は否認する。

右の買受け及び新築は、すべて被告が自己資金をもつて行つたものであり、公司の出資金あるいは利益金によるものではない。

同(二)記載の事実は認める。

3  (被告の主張)

(一) 原告らは、本件公司を民法上の組合である旨主張するが、本件公司の経営に当るのは原告區及び被告だけであり、他の構成員は、本来、中国流の互助協力の精神から本件公司に参加したにすぎず、本件公司の事業活動から生ずる債務について一切責任を負わない反面、本件公司の業務を監視する権限を有せず、単に利益が生じたときに適宜その配当を受け得る地位にあつたにすぎない。従つて、本件公司は、構成員相互間に権利義務関係等の法律関係を生じさせるものではなく、また、構成員の共同事業を目的とするものではないから、これを民法上の組合とみるべきでなく、その関係は、単に友誼的な互助協力関係にすぎず、そうでないとしても、商法上の匿名組合に類するものであつて、構成員間に持分の関係は存しない。

(二) 本件公司は、その後有限会社組織に改められることになり、昭和二八年六月に有限会社光蘭亭が設立され、被告がその代表取締役に就任し、この結果光蘭亭の権能はすべて右有限会社の組織に吸収されたが、公司の構成員は、その際、会社設立後も互助協力組織としての公司を継続させる旨合意するとともに、各構成員の利益配当の割合を相互に確認した。原告らは右の確認をもつて組合の持分比率の確認であると主張するが(請求原因1の(三))、右は、単に友誼的に会社の利益に応じて適宜配当を行う旨の自然債務的な利益配当の割合に関する定めにすぎない。

三  抗弁 (時効取得)

1  被告は、本件土地(一)につき昭和二六年二月二二日から、本件土地(二)につき昭和三六年六月二九日から、本件建物につき昭和三七年一一月二一日からそれぞれその占有を開始し、以後一〇年間右各占有を継続し、かつ、右各占有の開始時において、被告に本件土地建物全部の所有権があると信ずるにつき過失がなかつた。

2  仮に、右1が認められないとしても、被告は、昭和二六年二月二二日から二〇年間本件土地(一)の占有を継続した。

3  被告は、本訴において、右各取得時効を援用した。

四  抗弁に対する認否

否認する。

五  再抗弁

被告は、本件土地建物を本件公司の代表者として占有したにすぎないから、その占有は、自己所有の意思をもつてされたとは言えず、また、被告は、本件土地建物の所有権が自己に帰属することについて善意であつたとは言えない。

六  再抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠〈省略〉

理由

一  本件公司の設立について

請求原因1の(一)記載の事実は、本件公司の構成員各自の出資の点を除いて当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第九号証並びに原告區及び被告各本人尋問の結果によれば、本件公司の発足当初の構成員及び各出資額は、原告區金五〇万円、被告金四〇万円、訴外區有富金三〇万円、訴外「金龍軒」(商号)金三〇万円、訴外「羊城」(商号)金三〇万円、訴外蔡法源金一五万円、訴外有川礼子金一五万円(以上合計金二一〇万円)であつた(なお、当初、右出資金の殆どを原告區が立替えて支払つたことは、後に認定(二の1)のとおりである。)ことを認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  本件公司の運営の実態について

次に、本件公司の法的性質の判断の前提として、本件公司の運営の実態を、出資に関する面、事業経営に関する面及び利益配分に関する面等から検討する。

1  出資に関する面について

原告區本人尋問の結果によれば、前認定の本件公司の出資金総額金二一〇万円については、当初、被告がその出資金四〇万円のうち金一〇万円を現実に支払つたものの、その余を支払えず、また、原告區を除くその余の構成員も各自の出資金を支払えなかつたため、原告區がこれらをすべて立替えて支払い、その後各構成員から立替金の返済を受けたものと認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はなく、また、原告區及び被告各本人尋問の結果(但し、いずれも後記認定に反する部分を除く。)とこれにより真正に成立したものと認められる乙第八四号証によれば、本件公司光蘭亭は、右出資金二一〇万円のみを元手とし、これから本件旧建物の敷金七〇万円ほかを支払つて同建物を借り受け、改装をしたうえ、什器備品等を購入して全く新規に営業を開始したものと認めることができる。

2  事業経営に関する面について

証人中村篤子及び同唐潤生の各証言、原告両名各本人尋問の結果、被告本人尋問の結果(一部)とこれにより真正に成立したものと認められる乙第二八ないし第三〇号証及び成立に争いのない乙第三一、三二号証によれば、本件公司光蘭亭の経営について、当初、原告區及び被告がその代表者と定められ、本件旧建物における店舗(以下「五丁目店」という。)の他に銀座一丁目にも建物を借り受けて店舗が設けられ(以下「一丁目店」とい。)、五丁目店を本店と、一丁目店を支店と称し、原告區が一丁目店の、被告が五丁目店の責任者となり、対外的にはそれぞれの名義を使用して営業を開始したこと、一丁目店は開設後しばらくして建物の賃借権に紛争を生じたため廃止されたが、原告區は、その後も従業員の手配、財政の管理等について五丁目店の経営についても公司の代表者として実質的に参画していたこと、公司の構成員の一人であつた訴外有川礼子及び同區有富らは、女中あるいはコツクとして五丁目店の業務に従事していたこと、その余の構成員らも、当初月一回程度の会合を通じて、被告等から光蘭亭の経営について報告を受けるなどしてその経営に関与していたことをそれぞれ認めることができ、右認定に反する被告本人尋問の結果の一部は採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  利益配分に関する面について

前掲各証人の証言及び各本人尋問の結果並びに成立に争いのない甲第一〇ないし第一二号証によれば、本件公司成立以後昭和三三年ころまでの間、本件公司の構成員間において、光蘭亭の営業により生じた利益を適宜出資比率に応じて分配していたこと、その他にも本件旧建物の所有権取得後は同建物の家賃の名目で毎月金二一万円を出資比率に応じて分配していたこと、これらの分配は、構成員全員の協議の結果、本件建物新築費用の内部留保及び金融機関等からの借入金返済のために中止されたこと(この点の詳細については、後に認定(五の2の(三))のとおりである。)を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

4  その他

証人唐潤生の証言及び原告區本人尋問の結果によれば、同証人及び訴外黄澤楹は、昭和二八年ころ、原告の光蘭亭に対する権利(法的地位というべきもの。)の一部(二分の一)を半分ずつ各金一八〇万円で譲り受けたことを認めることができるところ、後に認定(四の1)のとおり、昭和二八年六月二三日ころ、本件公司の構成員間において、光蘭亭に対する各人の持分を再確認する旨の念書(甲第五号証)が作成され、念書には各人の持分比率が詳細に計算され、出資額とともに記載されているが、そこには、右唐及び黄両名の出資額は、いずれも原告區の出資額の二分の一に相当する金一八万一二五〇円であると記載されている。したがつて、右両名は、原告區の光蘭亭に対する法的地位の一部を、他の構成員全員の同意を得て譲り受け、本件公司の構成員となつたものと推認できる。

また、前掲甲第一〇ないし第一二号証及び証人中村篤子の証言によれば、光蘭亭の経理記帳は、正規の方式によるものではないが、本件公司の構成員毎に一種の人名勘定形式で収支が明らかになるような方式が採られていることを認めることができる。

三  本件公司の法的性質について

そこで、以下本件公司の法的性質について判断する。

右二に認定したとおり、確かに光蘭亭の経営に当り、五丁目店に関しては当初から本件旧建物の賃借手続等の対外的行為はすべて被告の個人名義で行われ、被告の個人営業と変らぬ外観を呈していたと言えるけれども、内部的には光蘭亭は数人の者の共同出資によつてその財産が形成され、かつ、各出資者の光蘭亭に対する法的地位は、その取引例に示されるとおり出資の額面に止まらず、その比率に応じた光蘭亭の財産等に対する割合的権利である持分(当事者間では「株」と称されていた。)として認識されていたということができ、実際の経営に関しても、そのすべてを被告に任せ切りにしていたものではなく、当初は月一回程度の会合を持つ等して各構成員が意見を述べうる地位(いわば監視権)を有していたのであり、利益の配分も出資割合に応じて行われ、事業用資産取得のため利益の分配を中止する必要が生ずれば、全員で協議のうえその措置が決定され、さらに経理記帳も人名勘定形式が採られ、本件公司内の計算において被告を含む全構成員に対する収支勘定、利益分配が常に明らかにされていたものと言いうるのである。

以上の諸点を総合すれば光蘭亭の事業経営の方式は、対内的には共同事業としての実質を有していたと言えるのであり、本件公司が民法上の組合に比して対外的には個人色が濃く、かつ、内部関係においても各構成員間の経営に関する「共同」の程度が低いとは言うものの各構成員間に最低限度の拮抗関係(監視権)が存在する以上、被告の個人営業といえないことはもちろん、商法上の匿名組合に準ずるものともいうべきではなく、本質的には民法上の組合に類似するものというべきであるから、本件公司については、組合に関する民法の規定を類推適用するのが相当である。

四  原告らの共有持分権

1  被告作成部分についてはその成立につき当事者間に争いがなく、その余の部分については原告區本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五号証によれば、昭和二八年六月二三日ころ、本件公司の構成員の間で、各自の光蘭亭に対する持分比率を脱退者の出資額を控除した出資総額金一六五万円を基準として左記の割合で相互に確認したことを認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

被告呂鎮池 二四・二パーセント(金四〇万円)

原告區伝春 二一・九五パーセント(金三六万二、五〇〇円)

訴外區有富 一八・一パーセント(金三〇万円)

訴外黄澤楹 一〇・九七五パーセント(金一八万一、二五〇円)

訴外唐潤生 一〇・九七五パーセント(金一八万一、二五〇円)

訴外有川礼子 九・〇九パーセント(金一五万円)

原告李森輝 四・五四パーセント(金七万五、〇〇〇円)

2  ところで、被告は、右認定の持分比率の確認とは、友誼的なあるいは自然債務的な意味における利益配分の割合の定めにすぎないと主張するので、この点について検討を加える。

成立に争いのない乙第二号証及び第一二号証、被告及び訴外區有富名下の印影が同人らの印章によるものであることは当事者間に争いがないので、右の各印影は同人らの意思に基いて顕出されたものと推定されるから、真正に成立したものと推定できる乙第三ないし第一一号証によれば、昭和二八年六月二六日有限会社光蘭亭の設立登記がなされたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

ところで、被告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第三四号証によれば、有限会社光蘭亭の財産目録には本件土地(一)及び本件旧建物の記載はなく、右会社は固定資産として営業用の什器備品のみを有する会社であり、光蘭亭の経営の基盤となる土地建物についてはこれを会社の資産とする何らの会計処理も採られていないことが認められるが、前掲甲第五号証及び原告両名各本人尋問の結果によれば、右有限会社設立の際、その社員とならなかつた原告両名の申出により念書(甲第五号証)が作成され、それには、同会社の定款中の出資者、出資口数及び出資金額の記載は実際は相異しているので、後日の争いをなくすため、昭和二八年六月二三日現在において各人が光蘭亭の建物、什器備品等一切の物件につき有する持分を確認する旨の記載があり続いて前認定のとおり、各人の氏名、持分比率等が記載された上、各名下に各人の押印がされていることが認められ、また、甲第一〇ないし第一二号証によれば、右会社設立後も光蘭亭は公司として有限会社の社員となつていない本件公司の構成員に対し、従前同様に利益の配当を行つていたことを認めることができる。これらの事実に照らすと、原告両名各本人尋問の結果及び証人唐潤生の証言のうち、右有限会社は専ら税金対策上の形式的なものにすぎず、実質的には右会社設立の前後を通じて公司として営業を続けていたとの部分はいずれも信用することができ、これに反する被告本人尋問の結果は信用できず、右の証拠によれば、公司光蘭亭は、内部的には右会社の設立によつて何ら変容せず、従前どおり公司即ち組合として営業を続けたものと認めることができ、そうであれば、前記持分に関する念書(甲第五号証)が右会社の設立に際し、形式的に会社の社員とならなかつた原告らの申出によつて、その実質的権利関係を確認するため作成されたとの趣旨がよく理解できるわけである。

以上のとおり、前認定の持分の確認は組合財産の持分比率を確認した意味を有するものと言うべく、これを単なる友誼的なあるいは自然債務的な意味における利益配分の割合の約定にすぎないとする被告の主張は採用できない。

五  本件不動産の取得について

1  請求原因2の(一)の(1) ないし(3) 記載の事実(被告名義による本件土地建物の購入及び建築)及び同(二)記載の事実(被告名義の所有権移転登記及び所有権保存登記の存在)はいずれも当事者間に争いがない。

2  そこで、以下、右各物件の所有権の帰属について判断する。

(一)  本件土地(一)について

本件土地(一)は、光蘭亭開業後二年経た昭和二六年に、本件旧建物とともに光蘭亭の営業用財産として取得されたものであるが、被告本人尋問の結果によれば、右代金三四〇万円は、売買時に金九〇万円が支払われたほか、金七〇万円が旧建物賃借の際差し入れられた敷金七〇万円の返還債権をもつて相殺され、差額が月賦で支払われたものと認められるところ、被告本人尋問の結果中には、右の支払資金は被告本人の自己資金で賄われたものであつて、公司の利益金によるものではない旨の供述部分があるが、前認定のとおり、本件公司設立当初の出資金の殆どは原告の立替払いによつたものであり、弁論の全趣旨によれば、被告には公司結成当時十分な資力がなかつたものと推認され、その後も、被告は、本件公司の営業を基本に生計を立て、かつ、原告區に対し出資金の立替分を返済していたものであるところ、前掲甲第九号証によれば、五丁目店の開業後一年間の売上利益は金一五〇万余円であることからも、利益配当はそれほど多額なものでなかつたと推認できるのであり、かような事実に照らすと、本件土地(一)の購入資金が被告の自己資金により賄われたとの被告の供述はにわかに信用し難く、右資金は公司の利益金で賄われたとする原告區本人尋問の結果により多くの信憑性があるということができ、そうであれば、本件土地(一)は、公司の利益金をもつて購入されたものと認定すべく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  本件土地(二)について

被告本人尋問の結果によれば、本件土地(二)は、本件土地(一)に隣接する土地で、地積も二・七一平方メートルにすぎず、本件建物の新築に際し、その便宜のために取得されたものと認めることができるが、右土地が本件公司の財産として取得されたものであるとの点については、直接にこれを証する証拠はない。しかしながら、一般に、組合の存続中に、組合の営業に関する財産あるいはその営業に供される財産が取得されたときは、特別の反証のない限り、組合財産として取得されたものと推認すべく、たとえ右の財産取得が組合員の一人の名義でなされたとしても、そのことから直ちに右推認が覆されるものではないと解するのが相当であるところ、本件土地(二)が本件公司(組合)の存続中に取得され、その営業に密接に関連する財産であることは明白であり、一方、右土地は被告が個人の資産として取得したものであるとの被告の主張については、登記名義が被告であることの他、これに副う被告本人尋問の結果があるが、同結果は、本件各事実経過に照らしてにわかに信用できず、他に明確な反証のない本件においては、本件土地(二)は、本件公司即ち組合の財産として取得されたものと推認すべきである。

(三)  本件建物について

(1)  原告両名各本人尋問の結果及び前掲各証人の証言によれば、本件建物の新築に際し、公司の構成員間で相談のうえ、昭和三三年ころまで行われた利益配当を中止し、その利益金を剰余金として公司内に留保して建物の建築資金とする旨の決定がなされ、以後これに従つて配当が中止されたこと、昭和三七年の建築に当つては、右剰余金に加えて構成員唐潤生及び黄澤楹からそれぞれ金二〇〇万円の借入れを受け、これを担保として銀行から金九〇〇万円を借り入れて資金を捻出したこと、銀行借入れの金九〇〇万円の返済のため、建物完成後も配当は中止されたままであつたことをそれぞれ認めることができ、以上の事実を総合すれば、本件建物は、本件公司の利益金をもつて建築されたものと推認することができる。

(2)  ところで、被告は、本件建物も被告の自己資金で建築したものであると主張し、これに副う証拠として、被告本人尋問の結果の中には、建物の内装設備には公司あるいは有限会社の剰余金又は借入金を使用したが、建物本体の建築には被告が銀行から借り入れた個人資金九〇〇万円を使用したものであるから、建物それ自体は被告のものである旨の供述部分があり、また、被告名下の印影が同人の印章によるものであることは当事者間に争いがないので右印影は同人の意思に基づいて顕出されたものと推定できるから、真正に成立したものと推定できる乙第三八号証の一、成立に争いのない乙第四九号証及び被告本人尋問の結果により、真正に成立したものと認められる乙第五〇ないし第六〇号証によれば、銀行からの金九〇〇万円の借入れ及び建物建築請負契約がいずれも被告個人名義でなされていること、右建築関係の代金領収証は被告個人宛とされているのに対し、内装関係のそれは有限会社宛とされていることを認めることができる。けれども、前認定のとおり当時公司光蘭亭の資産関係が、土地建物は被告個人の名義で管理され、営業及び什器備品関係は有限会社光蘭亭の名義で管理されていたことに照らせば、経理処理のため、各領収証が各管理者の名義に合致するよう作成されたとしても不自然ではないというべきであるから、かように建築関係の書類、領収証がすべて被告個人の名義でなされていたことから直ちに建物建築が被告の自己資金によるものということはできず、従つて、前記(1) の認定に反する被告の前記供述はにわかに信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(四)  以上(一)ないし(三)のとおり、本件土地建物はいずれも本件公司にその所有権の帰属するものと認定できるところ、本件公司は民法上の組合に準ずるものとして、これに関する民法の規定を類推適用すべきであるから、民法第六六八条により、本件土地建物は本件公司構成員らの共有(合有)に属するものというべきである。

六  時効取得について

被告主張の時効取得の抗弁及び原告の再抗弁について判断するに、前掲各証拠によれば、被告が本件土地建物の占有を一〇年間あるいは二〇年間にわたり継続したことが認められ、また、被告が個人名義で、本件土地(一)、(二)を売買により取得し所有権移転登記を経由していること、本件建物を新築し所有権保存登記をしていることにつき当事者間に争いのないことは前叙のとおりであるが、前認定のとおり、被告は、本件公司即ち組合の代表者であり、その立場において、本件土地建物の所有権を組合の利益金で組合の営業用財産として取得したものである。

占有における所有の意思の有無は、占有取得の原因たる事実によつて客観的に認定すべきであるところ、本件における被告の所有の意思の有無について考えるに、前認定にかかる占有取得の原因たる事実に照らすと、その占有は、被告の内心の意思にかかわりなく、自己所有の意思をもつてなされたものではないと認めざるを得ず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

従つて、被告の主張は何れもこれを採用することはできない。

七  結論

以上によれば、本件土地建物について、原告區が一万分の二一九五の、原告李が一万分の四五四の各共有持分を有することは明らかであり、被告はこれを争つているから、原告らに本件土地建物について各自の持分の確認を求める利益があり、また、被告は、原告らに対し、各共有持分移転登記手続をなすべき義務を負うというべきである。

よつて、原告らの請求はいずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田二郎 久保内卓亜 内田龍)

(別紙) 物件目録〈省略〉

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